2009年12月9日
関西に行ったついでに司馬遼太郎記念館にたちより、吹
き抜けの天井に浮かび上がった竜馬の影をしみじみと見
上げた。この天井の隅にできたシミは坂本竜馬をみたこ
とがない人には、言われてみればそれなりに人型にみえ
るにすぎないが、革靴を履いてピストルを腰に差し家具
にもたれながら立って遠くを見ているあの有名な坂本竜
馬の写真を1度でもみたことがある人なら、
竜馬にちがいない!! のである。
記念館でNHKとの連動企画「坂の上の雲展」をやって
いた。文庫本はもっているが単行本はもっていなかった
ので、この記念艦に訪れた記念にと「坂の上の雲」全6
巻を購入した。買ってみると2004年の4月に新装版
として新たに発売された物だったがそれはそれで初版本
だった。品の良い購買担当の年配の婦人が親切に大きめ
の紙袋に入れてくれたが、持って歩くには重かった。
記念館を去るとき急な雨に降られた。この記念館で働い
ている人々は全員ボランティアであるが、入り口の案内
係の人がタクシーが到着するまで傘をさしかけてくれた。
記念館を訪れた数日後。あるライブを観た数人で今夜の
ライブはいかがじゃったろうかと評価がおこなわれたが、
ひと評価終わるとどういうわけか日本海海戦の東郷平八
郎が北欧諸国でいかに大切にとり扱われているかという
はなしになった。T O G O。東郷だ! と友人は
力を込めて、まるで観てきたかのようにストックホルム
にあるTOGO記念館のことを話すのである。
しかし。なんでライブの評価から日本海海戦のはなしに
飛んだのか。いくら考えても分からないが、この日本海
海戦の総指揮をとったのはTOGOこと東郷であるが、
戦術を考案したのは「坂の上の雲」の主人公:秋山真之
であることは知っていた。
友人は、秋山ァ? 誰だそれは? と言うから我田引水
とばかり、秋山によってつくりあげられた戦術によって
日本帝国海軍は無敵のバルティック艦隊に勝利したがそ
の戦術はいかにしてできあがったかを、わたしも友人に
負けじとまるで見てきたかのように語っているときに目
のコンディションが悪くなってしまって、検診、治療に
専念していたゆえに、この1ヶ月間のご無沙汰となった
のだが、それよりも「坂の上の雲」が途中で読みかけに
なってしまっていることがいかにも残念だった。
残念だがテレビ、読書はほぼ禁止されているから見るこ
とも読むこともできない。深夜まで夢中になって本を読
むなどという行為は最禁止条項である。起きていてもや
ることがないので仕方なしに毎晩早く寝た。そして毎晩
楽しくも不思議な夢を見ていたのである。
英国と長崎が地続きだった夢をみた数日後。
僕はビリケンの夢を見た。ビリケンといっても知らない
人がほとんどだと思うが、大阪では有名である。通天閣
にいるから誰でも知っている。ビリケンの夢を見たのだ
がビリケンはもともと夢にでてきたのである。
今を去ること100年前。1908年、アメリカの女流
作家が夢で見たユニークな生き物をモデルにして木で像
を制作したところ、どういうわけかその像が幸運の神様
のマスコットとして世界的に大流行したというのである。
名はビリケン。Billy Keaneかもしれん。
いったい1908年がどういう時代だったかというと日
本では明治41年。夏目漱石が「夢十夜」「三四郎」と
立て続けに発表した年である。夏目の大学予備門時代の
友人:正岡子規の死後6年目にあたり、おなじく大学予
備門の同級生:秋山真之の戦術により奇跡的大勝利を得
た日本海海戦の4年後のことである。
世界の大帝国ロシアに勝利し日本帝国大躍進の機運が日
本中に満ち満ち盛りあがりきっていた時代のことである
から、アメリカでの大流行もいちはやく取り入れられ、
日本でもビリケンが流行したのだろう。大分の別府温泉
にはビリケンの像が玄関脇に飾られた「ビリケン ホテ
ル」まで建っていたという。
その大流行から10年後、大阪新世界に上がパリのエッ
フェル塔、下が凱旋門という超奇抜なデザインの通天閣
が建設されることになり、その時にビリケンは守り神と
して飾られるのであるが、こんなはなし大阪モンでもき
っとよう知らんやろな。
夢で見たビリケンは女流作家の夢にあらわれたものでは
なく、別のビリケンである。通天閣のビリケンは足を投
げ出すような恰好で座っていて、その投げ出された足の
裏をさすると御利益があるとされ、あまりにさすられす
ぎて足の裏がペコンとへっこんでいる。僕の夢にでてき
たビリケンさんは旧知のツアースタッフO君で、やあひ
さしぶりだねえ元気だったかい? と声をかけると、元
気ですが皆さんに足をさすられてすこしへっこんできた
ようですと通天閣のビリケンのような座りをして話す様
子が、やはりラッキーな神様ビリケンさんな感じがして、
実は調子が悪くて本も読めない、俺にもさすらせろと足
の裏をさわると、ビリケンのO君はおおげさにくすぐっ
たがっておおいに笑うから、こっちもついおかしくなっ
てくすくすと笑いながら目が覚めた。