2010年5月6日
天気が良かった。
厚木小田原道路は交通量はおおいものの順調に流れてい
た。この区間は神奈川県警の釣り堀で制限時速の70㎞
を20㎞超えるとすみやかに覆面パトカーがあらわれ、
「はーい! そこの赤のフェラーリ。ゆっくりスピード
を落としてェ。はい、そのまま路肩に停まりなさい」
とスピーカーでアナウンスし切符を切ってくれる。
赤のフェラーリも黒のMGも白のアルファードもピンク
のカルマンギアも20㎞を超えればどの車でも分け隔て
無くスピード違反の切符を切ってくれるので、我々は7
0㎞走行を心がけ、追い抜いて行く車の品定めをしなが
ら厚木へと向かった。
「しかし。いったい。この道が神奈川県警の釣り堀と知
っていないんだろうか。どの車もどんどん我々を追い
抜いていくが」
「どれが生け贄になるのかな今日は。先日はアゥディー
クワトロと屋根に脚立を積んだハイエースだった。捕
まえちゃってゴメンねゴメンねーって感じだったな」
「しかし。最近の若い連中は車に興味がないっていうじ
ゃないか。いったいなんで?って感じなんだけどねえ」
「おれ達の青春時代はカルマンギアーだとかあって、あ
りゃカッコヨカッタねえ。フォルックスワーゲンタイ
プ1のビートルをベースにカルマン社がカスタマイズ
した2人乗りのクーペ&カブリオレ。この間エンスー
の杜ってホームページで今だ現役でバリバリ走ってま
すっていうカルマンギア見たよ。でも買うとなるとビ
ミョーだな。パーツは供給されてると言うけど修理工
場知らないもんねえ」
「80年代を過ぎると車も近代的になって来ちゃって、
特に90年代に入れば修理って言う事じゃなくて悪く
なったらパーツの交換。あのころからだね修理工の職
人の名人がいなくなっちゃったのは。手で直すんじゃ
なくてパーツを交換するだけだから名人なんかいらな
いんだよね。車メーカーが名人を必要としなくなった
のさ。あれだけ世話になってんだから車メーカーもゴ
メンねーゴメンねーって名人に謝ったのかなあ。きっ
と知らんぷりだったんだぜトヨタもニッサンも」
「レコードもそうで、ターンテーブル式プレーヤーは直
せたけどCDプレーヤーなんかは部品の交換じゃなく
て全取っ替え=新しい物を買わなきゃならなくなっち
まったんだから凄まじいね変わりようが」
「お客さん。部品交換するよりも買い換えた方が早いで
すよ安いですよって言うんだよ電気店の店員が。なあ
に部品なんかはじめっから揃えちゃいないのさ。平気
でウソをいうからなあ大メーカーは。それでダメにな
ると買い換え。新しい機能がつくと買い換え。客がな
んであれ次から次へと買い換えるから、それはそれで
メーカーは大儲けで、しかも普及すればするほど値が
安くなるから、客はますます修理などしなくてすぐ買
い換えて、結局、CDプレーヤーは消耗品となったも
のだから、使えなくなったターンテーブルを後生大事
に持っている奴はいるけど使えなくなったCDプレー
ヤーはただの燃えないゴミなんだ。これも1990年
代になってからの話で修理工がいなくなった時代と同
期しているよ」
「見なよ。周りを走っている車を。エコが主題だからど
れもこれもナチュラルオーガニックフードファミリー
レストランのような車ばかりじゃないか。カルマンギ
アもなし。TR3もなし。MGクーペもなし。オース
ティンヒーレーもなし。コブラもなし。若者はいった
いどの車に憧れればいいんだよ。いくら今時の若者だ
と言ってもいきなりラグジュアリーファミリーカーに
はいかないぜ。車に興味がないんじゃなくて興味が持
てる車が作られてない走ってないってことなんでしょ
う。草食系などと呼ばれちゃってるが経済を仕切る大
人共が自分の金儲けの都合だけでよってたかって去勢
しちゃってるんだよ。まったく気の毒にな」
「そういえばホンダのNSXに乗ってたけどあれはどん
な車だったの?」
「いやまあなんとも中途はんぱな車だったね。スポーツ
カーでもなくラグジュアリーカーでもなく、、、
まずボディーのオールアルミというのは画期的だった。
だけどエンジンは、トヨタで言えばクラウンのような
最高級車クラスのホンダレジェンドのエンジンをチュ
ーンアップしただけのもので6気筒。たいがいスポー
ツカーはV8とかV10とかV12とかメーカー毎に
特別に開発されたエンジンを搭載するんだが、NSX
は6気筒でしかも3リッター。これじゃ大型の普通車
と何ら変わりなし。その上、富裕層狙いだからとゴル
フバッグが積めるトランクを用意したからその分ホイ
ールベースが伸びてしまって走行にキレがないんだ。
世界の車はアメリカでどれだけ成功するかが勝負なん
だけどNSXはさっぱり人気がでなかった。というの
はそういったコンセプトの中途はんぱさ=わかりにく
さがあったんだから当たり前なんだけどね」
「話は変わるけど昨夜の脱輪もおかしかったねえ」
「いや免許とって30年になるけど脱輪は初めてだった。
あの駐車場もっと明るくしなくちゃ。あの暗さじゃ端
のスペースだけ20㎝ほど段差がついてるってまった
くわかりません。でもいずれにせよしっかり見て運転
しろってことですね。脱輪から救ってくれた車屋のS
さん達親切でしたね。知り合いの知り合いの方ですか
ら料金は無用ですってさっと引き上げていったあの勇
姿。強きをくじき弱気を助ける任侠道って感じの人達
でしたね。いや今回もいい旅になりました」
「また誘ってください」
「またでかけましょう」
などと会話しながらいい天気の高速道路をのんびりと走
りながら東京へ戻った。