2006年3月31日
桜が満開であります。
家の近所の公園でも会社の近くの公園でも今が盛りと咲いていま
す。毎年花見を企画するのだけれど、その日に限って雨がふった
り花冷えの風が吹いて風邪でもひいたら洒落にならないと中止に
したりと、なかなか桜見物もままならぬのである。
かみさんと結婚したてのころ。遠出して小金井街道の玉川上水堤
の夜桜見物に出かけたことがあった。 行ってみたところ桜は満開
だったがここの堤には照明がなく、ただ暗い空に桜がぼんやりと
白っぽく見えるだけで綺麗ではなかった。小金井街道を車が通る
度に桜は一瞬ライトに浮かび上がり車が通りすぎるとまた桜は消
えた。
夜桜はライトアップが欠かせないと翌年は千鳥ヶ淵の夜桜見物に
出かけたが、それはそれは素晴らしいものだった。
学生時代に観た鈴木清順監督の映画「喧嘩エレジー」で主人公を
演じた若き高橋英樹が恋人と満開の桜の下を歩くというシーンが
あって、千鳥ヶ淵で撮影された。現代の若者ではない昭和初期の
若者の二人のデートシーンでは、手を繋ぐことはもちろんなく二
人並んで歩くことさえ世間をはばかっているようにただ無言で桜
の下を歩くだけだったが、そのシーンが印象的だったのはスクリ
ーンいっぱいに映し出された桜がスクリーンの上から下へ流れる
ように映し出されたことだった。
上を向き桜を眺めながら歩いて行くとすれば、桜は下から上に流
れ過ぎ去って見えるものだが、鈴木清順は歩いている主人公の目
線ではなく、カメラを後ろに引きながら桜を撮影し、主人公が通
り過ぎていった後を映し出した。それはまるで若い主人公がこれ
から通り過ぎるであろう人生を象徴しているような青春のワンシ
ーンだった。
かみさんにそのことを話し、俺らも桜を上から下に流れていくよ
うに見ようと嫌がるかみさんを説得し、後ろ向きに桜を見上げゆ
っくりと歩いた。後ろ向きだから早くは歩けない。途中で人にぶ
つかりそうにもなる。酔客に「ちゃんと前見て歩けよ。このー」
などと怒られもしたので、俺が後ろ向きで前を歩き、後ろ向きの
かみさんを転ばないよう両手で肩をささえ、鈴木清順カメラ目線
「喧嘩エレジー」ごっこで夜桜見物をしたが、あまりに時間がか
かってしまい、戻ってみると英国大使館裏に路上駐車していた車
がレッカー移動されていた。馬鹿な事に付き合わせた上(俺にと
ってはちょっと大事な事だったが)帰る車が無くなってしまい、
当時は荻窪に住んでいたが、荻窪の家に帰る電車のなかで、かみ
さん口も聞いてくれなかった。怒っている顔も可愛いと持ち上げ
たがスカされっぱなしだった。
桜が好きだった西行法師は花の満開のころ亡くなった。
その辞世の句は。
「ねがわくば はなのしたにてはるしなん
そのきさらぎのもちづきのころ」
さて今年はどんな花見になるか。タイミングに恵まれるか。
友人の時代小説仲間のござるのH氏でも誘って花見酒と洒落るか。
着物でも着て。