2007年5月23日
痲疹が大流行している。新聞では「猛威」という言葉を
使っていた。で、患者は誰かというと、ちいさな幼児・
子どもではなく大学生である。上智大学が痲疹で学校閉
鎖になったと聞いたときは、
エー! 痲疹ァ? 大学生にィ? あんなものは子ども
がかかるものじゃないのォ? ワクチンが開発されて、
痲疹なんてものはかからなくなったものじゃないのォ?
と、驚いたものだった。
僕らが子どもの頃は必ずら痲疹にかかって、咳が出て、
39度の熱が出て、熱がひいたと思うと身体中に発疹が
出て、伝染病だからと隔離され、1週間くらい家で寝て
いた。一度かかると抗体ができるので、妹が痲疹にかか
っても兄ちゃんである僕は平気だった。両親も子ども時
代に痲疹にかかっているから平気だった。
大学時代は学園紛争が吹き荒れていて、新左翼の連中は
旧左翼の日共系とヘゲモニーを争い、また新左翼同士で
内ゲバをくり返しリンチ、殺人事件まで引き起こし、大
学を占拠し立てこもっただけではなく、安保反対! と、
デモ隊を組織し、街頭にくりだし、機動隊と正面衝突し
たいへんな社会問題になったが、冷静な大人からは、
「痲疹にかかったようなもので、一時は熱にうなされる
けど、すぐ冷めるよ」
などと言われたものだった。
一時,骨董にのめり込んだときも、あんなに固執し棚に
並べ飾って飽きもせずながめた桃山時代の欠けた茶わん
も、熱が冷めてみれば、私はだーれここはどこってなも
んで、ただの欠けた茶わんにすぎず、我ながら痲疹にか
かったようだったなあと思ったものだった。つまり、一
時浮かれるが熱が冷めれば何ともないというものの例題
が痲疹であって、痲疹自体が社会問題化するという大袈
裟なものではなかった。さらに現代はワクチンの開発に
よって、その病気にかかることもまれであって、ますま
す痲疹などという病気は日本で住み暮らす者から遠ざか
っているものだと思っていたから、上智大学が痲疹で学
校閉鎖と聞いたときは驚いたのである。
ところが、かみさんに訊いてみると、我が家の子ども達
も幼児期にワクチンを接種し予防していたから疹にはか
からないで済んだのであるが、かかっていないから抗体
が身体の中にないのかもしれないそうだ。まあ、これも
個体差があって、昔接種したワクチンがあたかも抗体が
存在しているかのように罹患しない子もいるし、とっく
にワクチンの賞味期限がきれている子もいるらしい。
ワクチンが開発され痲疹を予防した子ども達は今や大学
生となり、ひとたび誰かが罹患すれば、集団を形成する
学校では、広い体育館の片隅で誰かがくしゃみをすれば、
その反対側にいる人にうつるといわれる痲疹のウイルス
のその猛威にひとたまりもなく、次々と罹患し学校閉鎖
が相次いでいるということだろう。倅の通っている日大
芸術学部も閉鎖で、朝起きるとやることもなく所在なさ
げにテレビを見ながら時間をつぶしている倅と顔を合わ
す。
「まだ閉鎖かい」
「うーん。始まらないねえ」
と親子の会話を交わしている。
倅は部活で合気道をやっているが、合気道部の学生も痲
疹で寝込んでいるらしい。予防医学がどんなに発達して
も、人の身体は生き物であるから、微生物やウイルスな
どを体内に取り込んで頑強な身体となっていくものなん
だなあとあらためて感じた。