2007年7月4日
毎年言っていることだから今年はいいだろうと思ってい
るが言わずにはいられない。暑さと湿気とクーラーの冷
気が大嫌いであると。
わたしはクーラーの冷気が苦手でして・・・
どこに行ってもそう言ってクーラーの冷気を目の敵にし
ているが、なぜクーラーが入れられているかと言うと暑
さと湿気があるからで、やはり単なるクーラー嫌いとい
うことではなく、暑さ、湿気、クーラーの冷気、の3点
セットが大嫌いなのである。今こうして書いていてもク
ーラー入れなきゃ暑くて汗ダラダラかく。せっかくクリ
ーニングにだし綺麗に仕上げてもらった黒の半袖のポロ
シャツもクリーム色(黄なり)の麻のスーツもすでにく
たくたである。であるからと、クーラーを入れてみれば
かいた汗で湿気を含んだ服の上から容赦なく冷気は肩に
ふりそそぎ、くたくたの服を着ている男の肩は冷え冷え
となり、ただでさえ肩こり症の男の肩はパンパンである。
オマケによせばいいのに半ズボンなんか履いちゃってる
から足腰まで冷え冷えである。
まあ、半ズボンなど履かなきゃいいんだけどね。麻のス
ーツなんか着なきゃいいんだけどね。でも、夏は軽く半
ズボンもまたいいものではありませんか。シルクやウー
ルの背広ではなく夏は麻のスーツもいいものではありま
せんか。
こんな時はしこしこと、えー将来の営業はどうなるので
あろうか、最近我が社の利益率の推移はいかがなもので
あろうか、などと数字を目で追ってもロクな考えがうか
ぶものではないから、いろいろなスタジオから送られて
くるデモテープを聴きまくることにしよう。これらの音
は世に出ていないものだから、自分だけの宝物的な感覚
で聴いている。聴いていると出前が届いたという。そう
だ。カツカレーを頼んだのだ。で、テープを聴きながら
この曲はカッコいいなあと思ったり、カツカレーを昼飯
に食いながらこの福神漬けは美味いなあと思ったり、机
に放り出してある本の中からウッディー・アレンのエッ
セイ集を見つけたりして、聴きながら食いながら読んで
みると、でたらめなことが書いてある。いくつかの章に
分かれているこの本の第2章に、若い頃に書かれた初期
短編集が集められているが、その紹介文からこうである。
「ここに書かれている5編は、ウッディー・アレンの初
期のエッセイである。最近では、エッセイは書かれて
いない。ネタが尽きたのである」
といった具合に全編が喜劇的で悲劇的でまったく精神分
裂症そのものである。とくに全能の神・主とアブラハム
とその息子のイサクが登場するいくつかの話は、旧約聖
書のエピソードを主題としているが、よくもまあ神をも
恐れぬものだと感心するするくらい超デタラメである。
アブラハムが息子を生け贄にせよと主に告げられる話は、
「なんで私が死を」
「なんで? 神が言ったことに質問はできない」
「ほんとに神だったの?」
「あの威厳ある声は神だ」
いやいやする倅を丘に引っぱりだし木を組み生け贄用の
祭壇をつくっていると神が現れる。
「何をしておるのだ」
「息子を生け贄でさァ」
「だれがそんなことを言った」
「あなたですよ」
「何故私を神と思った」
「威厳ある声は神にちがいありません」
「お前は威厳ある声の持ち主を神と思うただのアンポン
タンだ。お前が生け贄となれ」
「民の為とはいえ死ぬのはイヤダ勘弁してくだせえ」
「こんなごくつぶしの亭主なんか殺してください」
まあ、民の為に死を選ぶことによって救世主となる人間
が現れるという旧約聖書の預言を茶化しまくっている。
さすがの吉本新喜劇もここまで過激ではなかろうと思わ
れる。これは、聴きながら食いながら読むものではない
な。精神分裂症につき合うのに「ながら読み」はなかろ
うと、東京駅地下資生堂パーラーで読もうと思って買っ
たがマッサージ屋に行ってしまい読まずじまいになって
いた佐藤雅美さんの本「縮尻鏡三郎シリーズ」最新版に
とっかえた。
のっけの話が釣りにかかわる事件の話である。釣り客が
竿が流れてくるのを見つけ海から拾い上げようとすると
重い。なにか引っかかっているのかと竿をぐいと拾い上
げると竿元を握ったまま水死した土左衛門が引き上がっ
てきた。という話であるが、この話は幸田露伴の「幻談」
とまったく同じである。現在活躍中の小説家・佐藤雅美
さんが、古い明治時代の小説家とはいえ日本ではあまり
にも有名な幸田露伴の小説をそっくりいただくことはあ
り得ないだろうから、きっとこの話は江戸時代に実際に
あった或る有名な事件・事故だったのだろうと思う。
露伴の有名な「五重塔」は、江戸時代の実話をもとに書
かれた物語であったし、佐藤さんは江戸時代の民法・刑
法とも云うべき「お定め書き」を辞書にして実際にあっ
事件をもとに小説を書いているのであるから、拾った事
件が同じであったと考える方がよいだろう。
同じ事件であっても書き手が違えば当然別の話になって
くる。露伴は、この竿を拾った武家が出会ってゆく不思
議なできごとを怪談ふうに書き、佐藤氏は土左衛門とし
て登場した死人が誰で、また誰に殺されたかという捕り
物仕立てで書き上げていた。
カツカレーも食い終わりデモテープを聴き終わったとこ
ろに、大学時代の同級生のSが近くに来たついでにと事
務所に顔を出した。やー暑いねえと汗を拭く拭きやって
きた。しばらく歩いてきたようで、顔は汗だく、スーツ
はくたくたであった。