2012年10月20日
荷物は紛失していた。
航空会社による荷物の紛失は、1985年5月、単身ニュ
ーヨークに渡った時以来のことだった。その時は格安チケ
ットで航空会社はパンアメリカン。成田空港の搭乗ゲート
で出発待ちをしてると
「ミスターカスヤ搭乗ゲートカウンターまでイラッシャイ」
とアナウンスで呼び出され、オーバーブックしたから格安
チケットの人の席はない。次の便で行ってもらいますと告
げられニューヨーク直行便をロスアンジェルス経由便に変
更させられた。予定の便に積み込まれた荷物はどうなると
問うとニューヨークパンアメリカンカウンターで確保しま
す。安心しなさいと云われ、格安組10人は当初の到着予
定を遥かに過ぎた真夜中にニューヨークに着いたが、荷物
は出てこなかった。
僕は「バッドフィーリング」のリミックスをするためにニ
ューヨークに来たのにマルチテープが入っている荷物が消
えてしまったのだから、とても素面じゃいられない。もう
喧嘩腰で
「荷物はどこに行ったんだっ! 貴様等っ!」
と怒鳴るが、パンアメリカン航空職員は首をすくめ
「I dont know」と言うばかり。
東京で我が社は荷物の確保をギャランティーしたようだが、
ここはニューヨークだぜとスギちゃん張りのワイルドさで
ニューヨークの洗礼をくれている。
テープは永遠に消え失せたかのようで、まだ英語もろくに
喋れない僕は、遠く離れた深夜のニューヨークでどうして
いいのかまったく分からず、空港のベンチに座り込み呆然
自失していた。
子供の頃から憧れたニューヨーク。あの映画の舞台となっ
た永遠のニューヨーク。
ウエストサイドストーリー。
ワンス・アポンナタイム・イン・アメリカ。
マンハッタン。
アーニー・ホール・
タクシードライバー。
真夜中のカウボーイ。
ゴッドファーザー。
ブルックリンブリッジの向こうにマンハッタンの摩天楼の
夜景が見えていたがすこしも心が弾まなかった。
ちなみにマスターテープは2日後に、紛失したパンアメリ
カンではなく、日本航空ニューヨーク支店の尽力でシカゴ
から送られ手元に届いた。あのころの日本航空の海外支店
は、邦人の災難事に領事館のような手助けをしてくれたも
のだった。
今回の荷物の中味は衣類だから気楽だったが、紛失届けに
行くとカウンターに20人ばかりならんでたのには驚いた。
100人乗りの飛行機で紛失荷物が20人分で紛失確立2
0%は高すぎるが、それだけ日常茶飯事であるようで紛失
届けに並んでる人も、今日か明日には届くんでしょうと悲
壮感はまったくなかった。
円利子と再会。PIERROTとは初対面。ジュリも向か
えに来てくれていた。とりあえずウエルカムシャンパンを
とカルアリの街の中心にある宮殿(カステーロ)のテラス
のカフェに行くことにした。
ローマ帝国滅亡後の地中海世界はイスラームの海賊の支配
が数世紀も続いたが、その時代、ここサルディーニャ島は
南部、中部、北部にそれぞれに領主がいて、南部のカルア
リは交易の玄関口の港から全ての道が小高い丘の上に立つ
領主の宮殿に向かって登っている。
宮殿のテラスでシャンパンではなくイタリアの発泡白ワイ
ン・プロセッコを飲んだ。フルートグラスに並々と注がれ
たプロセッコが1ユーロ(100円)。雲行きがあやしく
なったな。さっきまで晴天だったのにと思う間もなく行き
成り一天俄にかき曇り土砂降りとなった。大慌てでボトル
とグラスと荷物を両手に抱えテラスのカフェに飛び込んで
ハイチーズと記念写真。雨上がりで水
もしたたるいい女達と円利子。
左からジュリ。エリカ。円利子。
このあと円利子に、カスヤの初サルディニァの今夜は何を
食べたいと聞かれて、島だから魚介類を楽しみにしてきた
が円利子のお奨めは肉だというので、よし、魚介類は明日
にして今夜は肉でと決めたが、馬肉屋に連れていかれるこ
とになろうとはこの写真を撮ってる時は知るよしもなかっ
た。マンマミーア!!
宮殿から円利子の主宰するSHIBUYA・TVのオフィ
ースまで5分ほどの距離。坂を下る途中で犬と出会った。
動物の表情でいちばん微笑ましく笑えるのが擬人化された
表情でウオルト・デズニーのアニメーションに登場する動
物は表情がまるで人間。これは101匹ワンちゃんも子鹿
のバンビでもわんわん物語りでも美女と野獣でも皆おなじ
で、主人公の動物に人間と同じような感情を移入しながら
僕たちはミッキーマウスやプルート見るのだ。特にドナル
ドなどホントにあんな奴が実際いるんだからヤンなっちゃ
うし、美女と野獣なんかはティーポットまでが擬人化され
ていて、ここまでゆくと見事である。
その犬は道に伏せっていた。坂道を気をつけながら足下を
見ながら下っていたが、横に一本入った道が平らだったの
で円利子とつい話に夢中になって足下から目が離れたとこ
ろにその犬は寝ていてあやうく踏みそうになった。
あわてて飛び退いたら飼い主のオヤジは身振り手振りで笑
いながら犬になのか俺になのか気をつけなさいよ言った。
ゴメンナ、、、と犬をみると犬は上目遣いにこちらを見返
した。その顔はいやこちらこそ失礼と言ってるようで思わ
ず笑った。お前、デズニー映画に出てみる気はないかね。。