2006年4月18日
入院していると本を届けに来たかみさんが、シンガポールからき
た武闘家の一族が、亡き父親の遺言で青森に住む師匠を訪ね空手
の秘伝書を受け取りにきて山で遭難したという。
ヒデンショ?なんだそれいったい。
あら知らないの?今週の半ばはその話でもちきりだったわよ。
知るわけないだろう。俺は、このベッドで唸ってたじゃないか。
そーか。新聞も読んでないわよね。
読めるようになったのは、やっと昨日からだ。
で、どうしたんだ。と聞くと、かみさんが詳しく話して聞かせて
くれたが、なにか漫画の話を聞いているようで、つい話の腰を折
って、そんなこと有るわけないじゃないかガセネタだろう。エイ
プリルフールはとっくに終わったぞと口を挟むもんだから、かみ
さん話が前に進まなくて、記事が載っている新聞持ってくるから
自分で読んでみなさいと夕方新聞を持ってきた。
江戸時代の剣豪の免許皆伝の物語ではあるまいに、今時、空手の
秘伝書などない。特に極真空手は世界中に広がっているからすべ
ての技は公開されている。と極真会の師範もいい、空手に詳しい
格闘技の専門家も、神田の古本屋街にいけばそのような口伝書め
いたものは有るかもしれないがといい、実際に神田にはそのよう
な秘伝書口伝書めいた古本が存在しているようで、青森の山奥で
はなく神田を捜せばよかったのにと大笑いした後で語ったと記事
に出ていた。
シンガポールからきた一行は、死んだ格闘家の妻。その子供達。
そしてその一族の10人くらいだそうで、遺言どおり青森には来
もののどこを捜せばいいのやらとうろつくうちに世界遺産にも登
録されている白神山系という表示をみつけ、神という文字がある
からここに違いない。この山に亡き格闘家の父親が神とあがめる
幻の師匠がいるのではないか。是非捜し出しお会いして秘伝書を
いただこうじゃないかと普段着のまま雪山に入り込み遭難したの
だった。
大山増達さんの若き頃の修行時代を描いた漫画「空手バカ一代」
の読み過ぎでもこうはならないと思った。それともシンガポール
あたりでは、いまだ、そのような物語が伝説として残っているの
だろうか。遠い国から遺言を守り一族そろってはるばるやってき
て遭難してしまった人には気の毒だが、日本昔話の極楽とんぼの
話を聞いたような気がした。日本書紀にのっている浦島太郎の話
を聞いたような気がした。
ところが、実際に師匠はいたのである。
その青森在住の武闘家は極真空手ではなく中国拳法の達人で、昔
シェイさんというシンガポールから来た人を確かに教えたことが
ある。彼等が捜している武闘家というのは私に違いないと名乗り
でたのである。しかも、その人は秘伝書を持っていた。テレビの
取材に「これがそうです。ただし、秘伝書ゆえ中を見せるわけに
はいかない」と巻物を見せた。
残念ながら秘伝書は差し上げるわけにはいかないので、その秘伝
書の抜粋の写しの巻物と免許皆伝書をお渡しすることにしましょ
うと、青森で贈呈式が執り行われ、これで一件落着めでたしめで
たし。
と思われたが、一族を引き連れてきた亡き格闘家の妻はあまり嬉
しそうではなかった。なんでも「ある人を捜している。引き続き
日本に残り捜します」とだけ答え、また会場を去っていった。
不思議なシンガポール一族の引き起こした騒動は、狐につままれ
れたような結末となったが、名乗り出た青森の中国拳法の達人と
いう人の立つ瀬はどこにあるのだろうか。
開いた口がふさがらない・・・
振り上げた拳の下ろしようがない・・・
とでもいうしかないだろう。下ろしようのない拳はどうすればい
いいのか?は秘伝書には書いてあるのかないのか。