2006年9月20日
コンプレックスというユニットのレコーディングで訪れ
たロンドンは夏だった。朝はさわやかに晴れ渡っていた
レコーディングの休日の或る日。吉川晃司と街に出た。
あてにならないのがロンドンの天気で、午後曇ったり晴
れたりしたが夕方になって雲行きがあやしくなったと思
ったら、雨になった。飯を食うところは決めていなかっ
たが、飯前に寄って一杯やるバーはコベント・ガーデン
のザンジ・バーと決めていた。かってローリング・スト
ーンズの連中が毎晩仲間と飲み集い狂乱の日々を過ごし
たザンジ・バーはメンバーしか店に入ることができなか
った。メンバーになるには、メンバーの定数に空きが出
なければなることはできない。おまけに、メンバーの順
番待ちが100人ほどいて、申し込んでも自分の番が来
るのはいつになるか分からない。という敷居の高い名物
バーがザンジ・バーで当時の最新のクリエーター達のた
まり場。たまたま、そのオーナーとメイダー・ベルのタ
イ飯屋で知り合いになって、日本人のメンバーはかって
も今もいたことがないからウエルカムだと100人を飛
ばして新メンバーに加えてもらえるという幸運が舞い降
り、メンバー記念にと晃司を連れて飲みに行ったのだ。
シャンパンで乾杯し機嫌良く店を出ると大雨で、気温は
ググッと冷え込みまるで真冬のようになった。朝はすこ
ぶる機嫌の良い夏の日だったから、晃司もこちらもジー
パンに薄手の上物。寒さに震え上がった。飯を食うどこ
ろではない。ずぶ濡れになりながらコベント・ガーデン
の古着屋で革ジャンを買った。革ジャンを着ても濡れた
身体はブルブルといつまでも寒さに震えた。シャンパン
の酔いはとっくに醒めていた。どこか洒落たレストラン
でナイスなロンドン美人との出会いをなどと期待してい
たがそれどころじゃない。ほうほうの体で「南天」と書
かれた赤い提灯がぶら下がっている焼鳥屋を見つけ飛び
込んだ。店では演歌がかかっていた。
南天のオヤジと女将は長い間フランスで過ごし、後、ロ
ンドンに渡り焼鳥屋を開業した日本人夫婦。当時、ロン
ドンには、企業が接待で使う高級日本レストランはあち
こちにあったが専門店はなかった。今でこそジャパニー
ズフードはスシ、テンプーラ・ヘルシーと市民権を得て
いるが南天は早すぎたのだろう。今という時を待つ前に
いつの間にか店は姿を消してしまった。ザンジ・バーも
昔日の栄光は消えた。ちょっとロンドン浦島太郎気分。