2008年9月24日
「トライトウー リメンバー」
という歌があって、子供の頃、日本でも放送されていた
アメリカのテレビ音楽番組「アンディー・ウイリアムズ・
ショー」の中で9月になるときまってこの歌が唄われた。
今では聴く事もなくなってしまったが、ビートルズが登
場する前は一番好きな歌手はアンディー・ウイリアムズ
で、彼のハスキーな声でメロディーが美しく悲しいこの
スローナンバーを歌われると自然に心の中がゆったりと
した3拍子=ワルツに揺れた。英語の歌詞の意味などわ
からなかったが子供心にこの歌が大好きだった。それは
僕が9月生まれだということもあったろうと思う。
ひさしぶりにこの歌を思い出し、番組ではアンディー・
ウイリアムズが唄っていたが誰の歌だったんだろうとネ
ットで調べると、「9月の思い出」
<Try to remember>
とあり、
<Au coeur de septembre>
ともある。もともと英語の曲はいちいちフランス語に訳
されて表記するということはないだろうし、Youtu
beからまず流れてくる歌はフランス語で、この歌はフ
ランス曲だったのかと初めて知ることになった。
母の弟(叔父)が学校を卒業すると岡崎の康生町にあっ
た洋画館タカラ劇場につとめたので、僕は小学校4年生
の10歳から高校を卒業する18歳まで毎週タカラ劇場
で映画を観ていたが、当時はハリウッド全盛時代ではな
く、イタリア映画もフランス映画も同じように上映され
ていた。
デニス・ホッパーが、
「ハリウッドは相変わらずドリス・デイとロック・ハド
ソンがいちゃつく能天気なラブ・コメディーを作り続
けてやがった。外では革命が起きているってのに!」
と叫んでいた時のことで、外の革命とは、ある映画は黒
沢明の「七人の侍」であり、ある映画はフランソワ・ト
リフォーの「勝手にしやがれ」である。
デニス・ホッパーの叫びを聞いたというわけではないが、
タカラ劇場は日本の片田舎の町で、彼の云う外の革命映
画を上映していたのである。
コメディーもあったが、僕の記憶ではアメリカ映画はお
おくは西部劇だった。インディアンと正義の味方の白人
の保安官の決闘物語で、かならず最後は白人側の勝利に
終わり、悪は負け正義が勝つと主題されていた。
中学生にもなれば、昔むかしの鞍馬天狗や赤同鈴之助の
ような漫画映画のような勧善懲悪物語にはあきあきして
いたから、当時も今も知り合いではないがデニス・ホッ
パーとまったく同じ叫びは僕の心の中にもあって、贔屓
としてはイタリア映画でありフランス映画で、「勝手に
しやがれ」や「気ちがいピエロ」の青年主人公ジャン・
ポールベルモンドは、僕の向かうべき青春であった。
まずフランス語にひかれた。保安官の喋る正義感丸出し
英語よりも、恋や生き方を語るあの甘ったるい感じが妙
に心地よく、したがってシャンソンも大好きだったので
ある。「9月の思い出」という歌が好きだったのはフラ
ンス曲であったからかもしれないと今は思う。
で、誕生日のことである。
夕方事務所で或る書類をながめているとSさんが顔を出
して、
「ちょっと会議室まできていただけますか」
というからでかけると、電気が消えていて会議テーブル
の上にケーキがのせられローソクの灯がゆらゆらと光っ
ていた。誕生日おめでとうございまーすと祝福され一気
にろうそくを吹き消すと明かりがともり、会議室にスタ
ッフ全員が集合していて、シャンパンがポン! と抜か
れるという粋なハプニングをプレゼントしてもらった。
この日はくしくも麻生太郎氏が自民党総裁に選出された
日で、その麻生総裁の就任挨拶で自分の誕生日が吉田茂
元総理大臣と同じ日だったということを初めて知った。
でも、吉田茂さんが「9月の思い出」という歌を好きだ
ったかどうかは知らない。