2008年10月21日
奈良の東大寺では3日間楽屋弁当ばかり食っていた。子
供の頃、旅に憧れ、いつか自分も汽車に乗って見知らぬ
土地へ行きたいといつも夢想していた。旅と云っても子
供のことであるからせいぜい修学旅行で行く京都・奈良、
東京・伊豆箱根あたりであったが、旅行記など読むとか
ならず駅弁の話がでていて、中央本線横川の釜飯はかな
らず登場していた。腹を空かせながら読んだものだった。
これは以外と大事なことで、人の頭だけでの記憶ほどあ
てにならないものはないから、目で読んで腹で空かせて
という2ウエイでの記憶の仕方は確実に残るのである。
それはともかくも、いつしか旅=駅弁となっていき、長
じて音楽業界に入り、今日は函館、明日は帯広という当
地当地の駅弁を食いながらの旅が始まり、弁当を食うた
びに子供の頃の夢が叶ったような気がしたから、元来弁
当は好きなのである。だからといって3日間の弁当づく
しにはいささかうんざりした。
そこで、せめて昼飯はあたたかい物を食おうと東大寺・
近鉄奈良駅のあたりをうろついた。コンサートの終了後
の打ち上げパーティーが開かれた天平会館の前に中華料
理屋があった。金曜日の昼時で店内はかなり混んでいた
が、さいわい奥のテーブルが空いていて座れることにな
った。店の名前が上海・・とあったから、さっぱりした
塩味が特徴の上海焼きそばを注文した。はたしてでてき
た焼きそばは上海風の塩味焼きそばで、すこし油味がつ
よかったが味付けは美味かった。半皿というものがあっ
て、要は半分の量を注文することができたから、得意の
青椒牛肉絲を追加してみると、これも美味かった。こん
ど奈良を訪ねたときにはかならずここに来よう! とい
う積極的な美味さではなかったが、まあ、言ってみれば
あたたかい食い物がうまかったのである。
翌日の東大寺コンサートの本番日も会場に入る前に外で
昼飯を食った。ホテルから乗ったタクシーの運転手さん
に、
「どこか、ソバ・うどんの美味い店に連れて行ってもら
えませんか」
と聞いてみると、親切そうな人であったが、
「ソバはあきませんなァ。うどんもゆるいんとちゃいま
すか。うまいソバやうどんはやはり大阪・京都ですわ。
奈良には美味いもんないとちゃいますか」
と答えは愛想のないものだった。
あらららら。そんなに奈良を悪く言っていいんかいと思
ったが、これは聞いたこちらが間違っていたかもしれな
い。そのホテルは奈良市から北へ離れた京都府下にある
ホテルであり、タクシーの会社は京都の会社だった。
「わたしらはほとんど京都へ向かわれるお客さんが多い
ものですから、奈良には行かんことはないんですが、
自宅も京都ですよって、よう知らんのですわ。えらい
愛想なしですんませんですなあ。1軒だけ女房と行っ
た美味い中華料理屋がありますが、」
中華は昨日食ったな・・・・
「東大寺さんとはずいぶん離れてしまいますがいかがし
ますゥ」
またタクシーにのるのも面倒だな・・・・
ということで近鉄奈良駅でタクシーを降りた。
飛鳥村に知人がいて年に数回は奈良を訪ねるというG・
H君は、カスヤさん、奈良で一番美味いものは焼き肉で
すよと言うが昼間っから焼き肉ではなかろうと、駅の横
の路地を入ったところにあったお好み焼き屋に入った。
数年前、中野裕行監督に東映の撮影所がある太秦のお好
み焼き屋に連れて行ってもらって食べたネギ焼きが忘れ
られなくて、東京ではなかなか食べられないからお好み
焼きの本場・関西ではいつもネギ焼きを食べる。
「醤油味にしますか? ソース味にしますか」
と聞かれたから醤油を頼むと、なんとまあ、なつかしい
味のする、子供の時食べたかもしれないという味のする
美味いネギ焼きだった。庶民的なおっかさん3人で割烹
着を着て店を切り盛りしている風景がいかにも良かった。
余りの美味さに3人前をお土産にと持ち帰ると、チャー
リー・CAZ・須藤の坊主頭3人組の舞台制作チームが
あっという間に平らげてくれた。
東京に戻って事務所のPCを開くと、スタッフから東大
寺ライブに参加できた感謝のメールが何本も入っていた。
坊主3人組には土産のネギ焼きが効いたかな・・・・
などと苦笑混じりにメールを読み終えると、すでに夕方
でずいぶん腹が減っていた。ちょうど友人が打ち合わせ
で事務所に来ていたから、どうですか夕飯でもと誘うと
時間があるというので、お好み焼きはいかがですか、ネ
ギ焼きでも食いましょうと広尾のお好み焼き屋へ直行す
る。
その店は味の若き天才といわれるオーナーがやっている
美味い美味いと評判の店でいつも混んでいる。フォアグ
ラの炒め物と白子の炒め物を肴に冷たいビールを飲んだ。
ビールからシャンパンに変え、いよいよ明石焼き、ネギ
焼きを食った。両方とも繊細な味である。これは評判を
とるなと感心するほど美味かったが、どうしても店内は
東京・広尾っぽくモダンなつくりで、ネギ焼きはそうい
う空間ではなく、奈良のオバチャンが割烹着着て作って
くれた庶民的な店で食うのが味なのかもしれない。
奈良の人には、美味い物はネギ焼きと言われてもネエと
言われてしまいそうだが、奈良を訪れるという人がいれ
ば、是非! 東大寺&ネギ焼きとオススメしておきたい。